基礎知識
VPSとは?クラウドとの違いをわかりやすく解説します
「クラウドファースト」という言葉があります。これは「ITシステムの構築を行う際には、オンプレミスよりもクラウドの利用を優先する」という考え方です。なぜクラウドの利用が推奨されるのかといえば、システムを構成するハードウェアを自社で所有するよりも、必要なリソースを状況に合わせてオンデマンドに借りる方が、費用や管理の手間、そして調達速度といった面において有利だからです。
そしてオンデマンドに仮想サーバーを調達する方法といえば、クラウドと並んで「VPS」が選択肢に挙がります。本記事ではVPSの概要や、クラウドとの違い、それぞれのメリット・デメリットについて解説します。
VPSとは
VPSとは「Virtual Private Server」を略した名称で、日本語では「仮想専用サーバー」などと呼ばれます。具体的には、「仮想化技術」を利用して1台の物理サーバー上に複数の仮想サーバーを構築し、それらをユーザーごとに割り当てて提供するサービスのことです。
VPSは1台の物理サーバーを複数のユーザーで共有するマルチテナント型のサービスです。この点においては、レンタルサーバーと同じであると言えます。しかしレンタルサーバーは、あらかじめ用意された環境上でアプリケーションを動かすことを前提としており、OSやミドルウェアを自由にカスタマイズすることはできません。対してVPSは、ユーザーごとに独立した仮想サーバーがまるごと提供されます。そのため、好みのOSを選択してインストールできるなど、レンタルサーバーと比較してカスタマイズの自由度が高いのが特徴です。
さらに、仮想サーバーごとに決められた量のCPUやメモリが割り当てられるため、レンタルサーバーと比較すると同一の物理サーバー上に同居している他ユーザーの影響を受けにくいというメリットもあります。
クラウドとは
クラウドとは、サーバーやストレージといったコンピューティングリソースやアプリケーションソフトウェアを、インターネットをはじめとするネットワーク越しに利用する形態のサービス全般を指す言葉です。クラウドサービスにもさまざまな種類が存在しますが、特にユーザーの利用形態によって、大きくIaaS/PaaS/SaaSの3種類に分類されます。そしてこの3種類のうち、VPSと比較されることが多いのが「IaaS」です。
IaaSとは「Infrastructure as a Service」の略称です。仮想化技術によって構築された仮想サーバーをはじめ、ネットワーク、ストレージ、データベースなど、その名の通りITインフラを構成するさまざまなリソースを広く提供するクラウドサービスです。仮想サーバーを実際に動かしているハードウェアや、それらを物理的に接続するネットワークなど、基盤となる部分こそクラウドベンダーの管理下に置かれているものの、ユーザーはその上で自由にリソースを作成し、サーバー上ではOSを含む任意のソフトウェアを動かせます。IaaSを利用すれば、ハードウェアやデータセンターを自社で用意せずとも、自社に要求に合わせたITシステムを柔軟に構築することができるのです。
クラウドの詳細については、「クラウドとは~今さら聞けない基本を徹底解説~」の記事もあわせてご参照ください。
VPSとクラウドの違い
VPSとクラウド(IaaS)は、その基盤に仮想化技術を利用していることや、仮想化されたサーバーをネットワーク越しに提供しているという点において、非常によく似たサービスです。そんなVPSとクラウドの違いのひとつは、その「柔軟性」にあります。
VPSでは、契約プランごとにCPUやメモリが固定されています。一般的にベンダーは数種類のプランを用意しており、ユーザーは「メモリ1GBのプランのサーバーを1台契約する」といった形で契約を行います。契約した後にサーバーのスペックを変更すること自体は可能なものの、「自由にCPUやメモリの構成を変更できる」のではなく、あくまで別のプランを選択することになるのが基本です。サーバーの台数を増やしたい場合も、その台数分の新たな契約を行わなければなりません。
クラウドでは、1つの契約(アカウント)内で、スペックの異なる複数台のサーバーを自由に構築できます。サーバー1台ごとに契約プランを決めるようなことはせず、許可された範囲内で自由にリソースを使用することができます。サーバーのスペックの変更も、契約を意識せずに行うことができます(スケールアップ/スケールアウト)。
こう書くと、VPSはスペックの変更や台数の追加は非常に面倒な作業に思えるかもしれません。しかし最近では、Web上からプランの変更や台数の追加が行いやすくなっているサービスも増えてきており、VPSだから契約の変更や追加が面倒というケースは少なくなってきています。あくまでクラウドほどの柔軟性はなく、選択できるスペック(プラン)も少ない傾向にある、程度に考えておくとよいでしょう。
また、VPSはあくまで個々のサーバーが主体であるのに対し、クラウドはインフラ全体を幅広く提供するという違いがあります。サーバーが主体となるVPSでは、ファイアウォールやロードバランサーといった機能は、存在こそするものの、多くの場合は補助的なものに留まっています。しかしインフラ全体を提供するクラウドでは、それらに加えてVPNやバックアップなど、ネットワークやストレージといったサーバー以外の関連機能も充実しています。
VPSとクラウドを比較すると、機能や柔軟性については、間違いなくクラウドに軍配が上がります。しかし費用面に注目すると、VPSはクラウドよりも低価格な料金で、仮想サーバー1台を専有できるというメリットがあります。そのため、クラウドが持つ多様な機能が不要なのであれば、コストを抑えられるVPSを選択するのはよい考えです。特に少ない台数で、かつ台数やスペックを変更せずに長期間運用し続けるようなWebサイトであれば、シンプルで安価なVPSの方が適している場合も多いでしょう。
逆に、柔軟性を生かした自由度の高いシステムを構築したいのであれば、VPSと比較して料金は高額になる傾向にあるものの、クラウドを選択する方がよいでしょう。将来的に多くのアクセスが想定されるスタートアップのサービスや、用途が異なる複数のサーバーを組み合わせるようなシステム基盤には、VPSよりも柔軟に拡張可能なクラウドが適しています。また、サーバー運用において重要となるのがセキュリティです。VPSよりも豊富なセキュリティ機能が提供されているクラウドならば、その特性を活かして柔軟なセキュリティ対策を施せるメリットがあります。
単純に機能の多さや費用だけを見るのではなく、利用用途に応じて、目的に応じて最適なサービスを選択することが重要です。なお、クラウドのメリットについては「クラウドとオンプレミス-それぞれのメリット・デメリットを徹底比較!」の記事もあわせてご参照ください。