技術解説
「AI」の基本の“キ”――わかるようでわからない人工知能の概要と種類を知る
1956年に「人工知能(Artificial Intelligence)」という言葉が登場して以降、たびたび注目を集めているAIですが、現在「AIブーム」は3回目を迎えていると言われています。
過去の「AIブーム」ではAIに対する期待が大きすぎた反面、技術がそれに追いついていなかったという面もありますが、現在ではパソコンやスマホの登場などハード面が進化したことで、「機械学習」、なかでも「ディープラーニング(深層学習)」によって、改めてAIが脚光を浴びています。
まずは現在のAIの可能性と限界を知ることが、AIをビジネスで活用する最初の一歩になります。
「AI」「機械学習」「ディープラーニング」それぞれの特長と違いをチェック
農産物の収穫時期を判断して自動で収穫するロボット開発や、家畜の病気を発見するシステム、電子チケットの需要予測、オークションサイトの不正防止、Google広告の運用自動化など、さまざまな分野でAIや機械学習、ディープラーニングといった言葉を聞く機会が増えてきています。
しかし、それらがどう違うのかを説明できる人は、あまり多くないのではないでしょうか。ここで少し、用語の整理をしてみます。
「AI(人工知能)」とは?
まず、人工知能と訳されるAIですが、実はさまざまな定義があります。これは、「知能」の定義が非常に難しいためです。
人工知能というと、ドラえもんや鉄腕アトムなどの、フィクションに登場する“自ら考え感情を持つ存在”を想像するかもしれません。
しかし、このような「汎用的なAI」の実現はかなり将来になりそうで、現在いわゆるAIと呼ばれているのは、特定の目的をもった「特化型のAI」です。
例えば、囲碁や将棋用のAI、目的地までの最短ルートを探すAIなどがこれにあたります。「ワトソン」や「Pepper」、「Siri」などは、自然言語処理を用いており、一見汎用的なAIのようにも見えますが、これらも特化型のAIに分類されます。
「機械学習」とは?
AI関連の話題とともに最近よく目にするのが、「機械学習」というワード。これはAIを実現するための技術のひとつです。
AI初期の頃は、専門家の知識や現場の経験値などをコンピューターに蓄積し、それに基づいてデータ解析や推論、問題解決などを自動的に行わせる「エキスパートシステム」が主流で、人間が質問とその答えをプログラミングする必要がありました。
医療分野などに用いられるケースが多く、例えば「熱があるか」「発疹があるか」「前日に何を食べたか」といった複数の質問を繰り返していくことで、「食中毒」などの診断させる……といった具合です。
しかし、診断の精度を上げようとするとプログラミングの量や専門知識のデータ入力などが膨大になるため、その分コストもかかってしまうほか、データの更新も簡単ではありません。人間の医者が診断する方が結果的には正確で早くて安い、という事態もしばしば見受けられました。
そこで、プログラムが自動的に学習する仕組みである「機械学習」が考案されました。機械学習では次の3種類が知られています。
AIブームの牽引車「ディープラーニング」
機械学習では、「入力」に対して、「正しい出力(分け方)」を機械に学習させることが重要です。
この「分け方」には「最近近傍法」「ナイーブベイズ法」「決定木」など、さまざまな手法がありますが、これらのひとつである「ディープラーニング」は人間の脳の「ニューロン(神経細胞)」の構造をまねた仕組みである「ニューラルネットワーク」がベースとなっています。
1個のニューロンは複数の入力に対して、それぞれ重み付けをして総合的に判断を下しますが、ディープラーニングではニューラルネットワークを複数つなげて「階層化する(深くする)」ことで、学習精度を向上させています。
ディープラーニングは会社組織の意思決定に例えられることもあります。
「一般社員が上げてきた情報を課長が判断し部長に上げる」→「部長は取締役に情報を上げ、そして最後は社長が決済する」
こうした一連の意思決定の流れは、ディープラーニングが判断する仕組みと似ているといわれています。
ディープラーニングは、このような多層化したニューラルネットワークを用いる手法の総称であり、従来の機械学習との違いは、機械学習では注目すべきポイントを人間が決めていたのに対し、ディープラーニングはコンピューターがデータを基に何をすべきか自動的に獲得できるようになった点といえます。
AIで「できること」と「できないこと」
囲碁や将棋、チェスなど、AIが人間を超えるケースが現れていますが、ビジネス分野での応用とその実用性はどれほどのものなのでしょうか?
ディープラーニングによって画像認識の精度が向上すると、エックス線などによる画像診断が自動化されるようになるであろうと考えられているほか、インターネットを利用する際に表示される広告なども、よりユーザーに最適化されるようになるでしょう。
また、小売の在庫や物流ルートなどの最適化も進み、人手不足を解消できる可能性も高まると推測されています。ほかにも翻訳や通訳などもディープラーニングによって実用レベルになることが期待される分野。もしかしたら、わざわざ「外国語」を学ぶ必要がなくなる未来も来るかもしれません。
さらに「第四次産業革命」として、あらゆるモノがネットワークにつながる「IoT」が注目を集めていますが、これらの領域のデータ解析にもAIが活躍しています。
膨大なデータ、いわゆる「ビッグデータ」を収集・解析することで成り立つディープラーニングでは、プラットフォームとして「クラウド」の存在が必要不可欠になります。
しかし、最初に説明したような「汎用AI」の実現については、まだまだ先になると考えられています。実現のためには「技術的特異点(シンギュラリティ)」が必要とされていますが、そのときには故スティーヴン・ホーキング博士が警告したように、人類が不要とされる世界になってしまうのかもしれません。