基礎知識
定時退社だけが「働き方改革」ではない──クラウドが実現する新しいワークスタイル
業種や業態に関わらず「働き方改革」が必要なことは、経営層から最前線のビジネスパーソンまでの共通した認識でしょう。
そうした中、2018年6月29日の国会において、ついに「働き方改革関連法案」(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)が可決、成立。今後、ますます注目が集まっていくことになります。
では、具体的に、どのような対策が働き方改革には有効なのでしょうか。柔軟で生産性の高い就労環境を実現する一つの解答・方策として、クラウドの活用が挙げられます。
目次
「働き方改革」が目指すものとは?
内閣府発表の「平成30年版高齢社会白書」によれば、高齢化率27.7%という世界でも例を見ないほどの超高齢社会が到来し、少子高齢化に伴う労働者人口の減少をはじめ、OECD(経済協力開発機構)加盟国中20位で主要7カ国(G7)の中で最低の「労働生産性」、そして近年大きな問題となっている長時間労働など、日本の労働環境の改善は待ったなしの状況です。
働き方改革を実現するためには、投資やイノベーションによる生産性の向上のほか、就業機会の拡大、意欲や能力を十分に発揮できる環境づくりが必要ですが、生産年齢人口の減少が進んでいる状況では、いずれ労働力が不足していくことは避けられないのが現状です。
さらに投資不足とイノベーションの欠如を起因とする労働生産性の低迷というものも、働き方改革の必要性が叫ばれる要因の1つとされています。近年では、「イノーベションを生み出す人材をどう育てるか」ということが喫緊の課題とされ、文部科学省だけでなく、経済産業省もその視点から教育改革を行っています。
より少ない労働力で、より効率的に、これまでにないイノベーションを創造できる。そのような社会を目指すにはICT技術、なかでもクラウド技術の活用が欠かせません。
働き方改革のヒントはクラウドに。多様なワークスタイルを実現するテレワーク
厚生労働省が「働き方改革」として掲げている課題には、
長時間労働の是正
雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
柔軟な働き方がしやすい環境整備(テレワーク、副業・兼業など)
病気の治療と仕事の両立
などがあります。そうした中、働き方改革の一つとしてよく取り上げられるのが、ICT・クラウドを活用した「テレワーク」という働き方です。
テレワークとは、テレコミューティングと呼ばれることもある、時間や場所の制約を受けずに柔軟に働くことのできる勤務形態のこと。在宅勤務やモバイルワーク、サテライトオフィスを利用した施設利用型など、多様な働き方を可能とするため、労働力不足の解消と生産性の向上が期待されています。
平成30年版の「情報通信白書」によると、企業のテレワーク普及率は2017年は13.9%で、全体の82.1%の企業が労働生産性向上などの効果があったと回答しています。
このテレワークの実現に大きく貢献しているのがクラウド技術です。
具体的には、Web会議システムやTV会議システム、仮想デスクトップ、ファイルサーバーによるデータ共有などの各種サービスがすでにクラウドサービスとして提供。出社せずともノートPCやタブレットを使って社外での作業ができたり、オンプレミスの自社サーバーをクラウド移行することでサーバー管理の人件費や工数の削減が可能になったり、移動にかかる時間やコストの削減ができたりというメリットもあります。
クラウド活用による業務の効率化でコア業務へのリソース注力が可能
このようにクラウドサービスやスマートデバイスを活用すれば、場所と時間にとらわれない働き方が可能となるだけでなく、ムダを省き生産性の高い働き方をすることができます。
その分、よりクリエイティブな業務にリソースを再分配したり、ロボットによる業務自動化の取り組み(RPA)などで企業競争力の源泉となるコア業務への労働集約を進めたりといったことが可能となります。
また、いつでも・どこででも、というクラウドサービスによって情報共有や社内コミュニケーションの効率化を図ることで、活発な情報交換を実現。イノベーティブな企画・開発業務の促進効果に期待できます。
日常的に使用している、電話や電子メール、表計算ソフトなどもクラウドサービスに移行することで、業務全体でICTを活用しやすくなり、生産性の底上げも可能に。
自社の業務や勤務形態に合わせたICT技術・クラウドサービスの導入により、コストを抑えながら業務プロセスの効率化を目指せます(※ICTによる労働生産性の上昇効果:業務の省力化…1.1倍、業務プロセスの効率化…2.5倍。※平成30 年版 情報通信白書より)。
イノベーションや新たなアイデアにつながる働き方を考える
「働き方改革」というと、とかく「定時退社」や「残業時間の削減」ばかりが強調され、そのためにフレキシブルな勤務形態を実現しやすいテレワークに注目が集まりがちです。
しかし、働き方改革の真の目的は、労働人口減少による労働力の減少を補い、労働生産性を向上させ、さらにグローバルな競争を勝ち抜くためにイノベーションを起こす仕組みを構築することにあります。このイノベーションを起こす仕組みづくりにも、クラウドサービスは重要な要素になっています。
例えば、これまで研究機関や大企業しか持ちえなかったような規模のサーバーリソースやAIをクラウドで、必要があれば個人のレベルでも使えるようになってきました。
IoTを活用した新しいサービスや、ビッグデータの解析にもクラウドサービスの活用は有効です。イノベーションを起こすためのデジタル革新基盤として、いよいよクラウドが「使える」ようになってきているのです。
もちろん、従来までの開発でもクラウドを利用することで、サービス開始や改良などの加速が可能です。
このように見ていくと「働き方改革」=「デジタル革新」ということができるかもしれません。すべての課題をクラウドが解決できるわけではありませんが、クラウドサービスによる柔軟なワークスタイルの実現から労働生産性を高めて労働力不足を解消したり、企業の競争力を高めてイノベーションを生む基盤を構築したりなど、クラウドサービスの一つの“最適解”となりうることは、間違いないでしょう。