基礎知識
基幹システムのクラウド移行で運用負荷が軽減!?
社内情報システムの管理運用を、少人数、あるいは1人に任せている中小・中堅企業が多く存在しています。ひとり情シス・ワーキンググループが実施した「ひとり情シス実態調査」によると、なんと日本国内の中小・中堅企業の約33%で情報システム部門の担当者が1人となっているのです。
本記事では、少ない人員で業務を効率化させるための有効な施策となりうる、基幹システムのクラウド移行について解説します。
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クラウド利用の加速
文字通り業務の根幹をなす基幹システムは、関わる領域が大規模かつ多岐にわたり、信頼性が最優先に問われるシステムです。「クラウドファースト」が広まりつつある昨今ではあるものの、クラウドは安定運用やセキュリティに対して懸念があるという意見も依然として根強く存在しています。情報システムではクラウドを採用しつつも「聖域」とされる基幹システムにおいては、クラウドの導入には踏み切れないという企業も多いのではないでしょうか。
しかし、2018年6月に政府が発表した「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」というガイドライン内において、政府情報システムの構築・整備に関してもクラウドサービスの利用を第1候補(デフォルト)として考える「クラウド・バイ・デフォルト原則」の方針が打ち出されました。この方針を受け、官公庁や金融系でもクラウドの利用が進みつつあります。特に金融系では、2017年に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が「クラウドファースト」を打ち出し、パブリッククラウドであるAWSへの移行を発表しました。これは後に「MUFGショック」とも呼ばれ、業界に大きなインパクトを与えたことを覚えている方も多いのではないでしょうか。
この後を追うように一般企業においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが広がっており、基幹システムのクラウドへの移行が徐々に加速しています。
クラウド移行のメリット
クラウドサービスは、ユーザーが利用するサービスの構成要素(クラウドベンダーが提供する範囲)によって、大きくIaaS・PaaS・SaaSの3つに分類されます。(なお、それぞれの特長については、「IaaS、PaaS、SaaSの違いを整理して、クラウドサービスの特徴を知ろう」の記事を参照してください)。
一口にクラウド移行と言っても、対象となるシステムの種類や要件に沿って、どのクラウドサービスが最適かは変わってきます。例えば、オンプレミスで運用している基幹システムであれば、独自にシステムを開発したりカスタマイズされていることも多いでしょう。そのため、移行先としてはインフラ設計の自由度が高く、OSやミドルウェアを自分で管理できるIaaSを選択するのが最適と考えられます。
IaaSであれば、インフラをクラウドに移行しても、独自開発したアプリケーションをそのまま利用できます。つまり、オンプレミス時代の機能や使い勝手を維持しながら、ハードウェアのリプレイスや障害対応といったハードウェアの管理をベンダーに任せることが可能になります。これはすなわち、運用コストの軽減に直結します。また、利用状況に応じてサーバーのスペックや台数を柔軟に変更できるため、システムの調達コストの平準化が可能になります。ほかにもサーバーがクラウドベンダーのデータセンターにあるため、BCP対策として有効であったり、セキュリティ面でも責任分界点に応じて、クラウドベンダーがセキュリティ対策を実施するため、少人数では手が回らずに放置されがちなファームウェアのバージョンアップが不要になるなど、IaaSを採用するメリットは多岐に渡ります。
注意するポイント
基幹システムは企業の経営上必要不可欠な、いわゆる「ミッションクリティカル」なシステムです。そのため、クラウドの導入にあたっては、調達にかかるコストだけでなく、さまざまな点で注意が必要となります。
機能とカスタマイズ
最初にそのクラウドサービスが基幹システムを稼働させる上で必要な機能を提供しているのか、どれくらいのカスタマイズが可能かを確認しておきましょう。また、その際には、検討しているシステムの構成自体も過不足のないものかどうかを意識するよう気をつけてください。
クラウドには、クラウドならではの特性があるため、オンプレミスの方法論をそのまま持ち込むのではなく、クラウドに適した構成を意識することが重要です。オンプレミスの環境をそのまま再現しようとしたり、オンプレミスと同じ方法論で可用性やセキュリティを確保しようとすると、結果的に複雑な構成になってしまったり、高価なオプションが必要になってしまうことも考えられます。こうなると、調達・運用コスト両面におけるクラウドのメリットがスポイルされてしまうだけでなく、クラウドの便利な機能を活用し切れないシステムになってしまうかもしれません。
性能保証と調達コスト
基本的に多くのユーザーとリソースを共有するパブリッククラウドは、「最善を尽すが保証はしない」という、いわゆるベストエフォートを前提として提供されています。そのため、希望する性能を確実に確保したい場合は、オンプレミスの方が向いているというケースも十分考えられます。
特に常時稼働し続ける基幹系システムでは、オンプレミスと同等のスペックをクラウドで実現しようとすると、結果として調達コストが高くついてしまうという可能性もあります。このようなシステムでは、必要な性能を満たせるかどうか、導入前に十分な性能検証が必要です。
可用性
オンプレミスにおける可用性は、サーバーやネットワークなどを冗長化し、障害発生時にインフラ側でフェイルオーバーさせる設定をユーザー自身が設計、実装する必要があります。言い換えれば、ユーザーがシステムの要件にあわせて、自由にインフラを設計できるということでもあります。
対してクラウドでは、こうしたインフラに関する部分の運用はクラウドベンダーが担当します。多くのクラウドベンダーでは、可用性向上対策や品質保証制度(SLA)による稼働率の保証を行っていますが、わずかな停止も許容しがたい基幹システムでは、ユーザー側でクラウドベンダーが提供している機能・サービスを利用した対策が必要です。事前に「ベンダーがどのような可用性向上への取り組みを行っているか」「品質保証制度(SLA)の内容」「提供されている機能で自社が必要とする高可用性のシステムを構築できるか」「調達にかかるコストは見合っているか」などをきちんと確認しておく必要があります。
セキュリティと準拠法
業務の根幹を成す基幹システムでは、セキュリティは何よりも重要視するポイントでしょう。オンプレミスと同レベルのセキュリティが確保できるかどうかを判断するには、クラウドベンダーの行っているセキュリティ対策を事前に確認することが不可欠です。クラウドベンダーのサイト上で「セキュリティホワイトペーパー」が公開されている場合、必ず自社のセキュリティポリシーに合致したものかを確認してください。その際は、ベンダーがクラウドに特化したセキュリティ認証(ISO27017への対応)を取得しているかも良い判断基準になるでしょう。
また、海外のクラウドベンダーを利用する際には、準拠法(国内法が適用されるか、海外の法律が適用されるか)や管轄裁判所も重要なポイントになります。一般的には、日本国内のリージョンを利用するのであれば、国内法と日本の管轄裁判所を適用できるようになってきています。しかし、海外のリージョンを利用する場合には、該当国の法律が適用されることもあります。例えば、ディザスタリカバリで一時的に海外のリージョンを利用する可能性があるような場合には、注意が必要です。特に米国法が適用される場合であれば、CLOUD Actによって、米政府からデータの開示要求がなされる可能性も存在します。
クラウド移行の流れ
オンプレミスからクラウドへの移行作業は、大きく「要件定義」「移行計画」「移行作業」「事後検証」の4つのフェイズに分けられます。
要件定義
要件定義のフェイズでは、クラウド移行の目的や最終的に到達すべきゴールを設定します。要件の定義が曖昧なままだと、望んだ形に着地することはできません。何を目的として、どこをゴールとするのかを最初に明確にしておきましょう。
移行計画
移行計画のフェイズでは、移行の対象になるシステムや、クラウド上での具体的な構成を検討します。具体的な移行計画の考え方については、「クラウド仕分けの4つの分類とハイブリッドクラウド」の記事を参考にしてください。
移行作業
移行作業のフェイズでは、前段の移行計画に沿って、実際にクラウドへの移行作業を行います。移行作業時にシステムの停止などが発生する場合は、事前に社内への共有や調整が必要となるでしょう。
事後検証
事後検証のフェイズでは、クラウド移行後のシステムで効果検証を行います。要件定義のフェイズで定めたゴールをきちんと達成できているか、確認しましょう。
移行事例
FJcloud-V(旧ニフクラ)を利用して基幹システムのクラウド移行を成功させた事例として、職業訓練法人日本技能教育開発センター様の事例をご紹介します。本事例では、FJcloud-V(旧ニフクラ)を利用することで従来ハードウェアやソフトのリプレイスにかかっていた運用コストの大幅な削減を実現しました。詳細については、「FJcloud-V(旧ニフクラ) クラウド移行事例「オンプレからのクラウド移行/Windows Server 2008 サポート終了対策」」をご確認ください。
まとめ
DXが叫ばれる現在、長らく聖域とされてきた基幹システムにもオンプレミスからクラウドへ移行する流れが到来しています。クラウドを正しく活用することで、非効率な運用からの解放やさらなるコストの削減などが期待できます。